役員等借入金について
役員等借入金の注意点は相続税だけではありませんが、相続税のところに記載致します。
Ⅰ 役員等借入金(以下「役借」とする。)の定義
会社が役員(大概は社長)から借りているお金、
換言すれば、役員が会社に貸しているお金です。
会社から見れば負債だが、役員から見れば資産・財産です。
Ⅱ 役借が増え易い場合
決算を組むと現金がマイナスになることがあるので、
現金をプラスにするために計上することが多いです。
ただし、下記の様に役借が増え易い場合があります。
ⅰ 赤字のとき(役借以外の借入金が増えたときを除きます。)
一概に言いきれませんが、損失額と資産減少額は比例します。
ゆえに、役借以外の借入金で損失以上に資産が増加でもしない限り、
赤字では資産が減少し、その穴埋めのために役借が増加するのが一般的です。
ⅱ 黒字でも売掛金や在庫等が大きいとき
一概に言いきれませんが、利益額と資産増加額は比例します。
しかし、資産増加要因が売掛金など現金以外の項目だと、
現金が減少し、その穴埋めのために役借が増加する可能性があります。
ⅲ 設立時の資本金が少ないとき
例えば、資本金が10万円だと、現金を20万円使えば現金残高が△10万円となり、
役借を10万円増加することになります。
しかし、資本金が多めの500万円なら、現金を20万円使った位では、
現金残高が480万円なので、まだ役借を増加させる必要はありません。
ⅳ 個人事業者が法人成りしたときに、個人の資産を法人に移すとき
資産は高額なので、資産の取得は現金をマイナスにさせ易いです。
そうなれば役借の増加で対応せざるを得なくなります。
ⅴ 現金の少ないときに役員報酬を計上するとき
役員報酬は、毎月同額の支給が原則です。
そうしないと利益操作と疑われる可能性があります。
ゆえに、現金不足で支給できないとしても、
役借を増加させて支給したことにしないといけません。
Ⅲ 役借の注意点
役借は現金をプラスにするために計上することが多いですが、
下記の点に注意しないと納税額が増えることがあります。
ⅰ 売上隠しが疑われやすい。
例えば、売上300万円が社長の個人口座に入金されれば、
個人口座通帳を確認しない限り売上が分かりません。
その売上を把握しないまま法人の口座に同額の入金があれば、
単なる現金の預入と処理してしまいます。
そうすると現金が300万円減少するので、
この仕訳を除いた現金残高が200万円としますと、
現金残高が200万円−300万円=△100万円となり、
役借を100万円以上増やさざるをえなくなります。
税務署はこの役借100万から300万の売上隠しを疑います。
ⅱ 貸した人の相続財産となる。
役借は役員から見れば会社への貸付金なので、
決算書に計上された金額がそのまま役員の財産になります。
ゆえに、その役員が死亡すれば、役借がその役員の相続財産となります。
しかも役借と他の財産との合計額等が相続税の基礎控除額
(3,000万円+600万円×法定相続人の数。恐らく4,200万円〜4,800万円が平均的)
を超えると、相続税がかかってしまいます。
また、相続税の有無に関わらず、
その役借を相続人等で分割して取得すると考えられるため、
分割協議等で揉める要因にもなり得ます。
ただし、財産評価基本通達205に、役借が無価値になる場合が規定されています。
例えば、業績不振のため事業廃止又は6ヶ月以上休業しているとき等が、
該当する可能性があります。
Ⅳ 役借増加の対応策
役借が増加し過ぎれば減少策を取ります。
その対策例は下記の通りです。
ⅰ 債務免除
役借は役員が会社に貸したお金ですが、
貸した役員が返してもらわなくて良いと判断すれば、
もう借入金ではないので、返してもらわなくて良い部分を減少させられます。
ただし、下記の点に注意です。
(1) 債務免除部分が全額益金に算入される(債務免除益)。
債務免除(役員から見れば債権放棄)は、
繰越欠損金(過去の累積赤字相当額。以下同じ。)の範囲内で行うのが一般的です。
繰越欠損金の範囲内であれば、
法人税等(法人税、事業税、住民税の総称。以下同じ。)が増えません。
しかし、繰越欠損金の範囲を超えると、法人税等が増えます。
更に、繰越欠損金の範囲内であっても、繰越欠損金が損金算入されず、
債務免除益に対してそのまま法人税等がかかる可能性があります。
(根拠は法人税法施行令第117条、法人税基本通達12-3-1)
一部抜粋しますと、「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等
その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる
資産の整理があったこと。」等が、繰越欠損金が損金に算入される要件となります。
(2) 書類の整備
少なくとも債権放棄の通知書が必要です。
その通知書に債権者(役員)が押印し、
債権放棄の理由も明らかにすることが必要です。
(3) 贈与税の恐れ
債務免除益を計上すると、会社の価値が上がるので、会社の株価が上がります。
役借の借入先と株主が完全一致(例:社長1人からの借入金で株主も社長のみ)
するときは、貸主が貸付金放棄損を計上することになりますので、
株価の上昇≒貸付金放棄損となり、贈与税の恐れはまずありません。
しかし、役借の借入先と株主が一致しない
(例:社長の親からの借入金で株主が社長のみ)ときは、
損を計上するのは親ですが、株価の上昇による恩恵を受けるのは社長なので、
社長が何もしないで経済的利益を得ることになり、贈与税がかかる恐れが出ます。
特に贈与税は基礎控除が110万円しかないなど
相続税に比べて遥かに税金がかかりやすいので、注意が必要です。
ⅱ DES(Debt equity swap){デス(デット・エクイティ・スワップ)}
DESとは、負債を資本金に振り替えることです。
このとき、役借は回収可能額に基づき評価されますので、
回収可能額が帳簿価額より低いと、債務消滅差益が出ます。
例えば、500万円の役借を資本金に振り替えたが、
その役借が200万円しか回収が見込めないとき、
差額の300万円が債務消滅差益となり、法人税等が増えます。
なお、役員が法人に出資し、法人がその出資で得たお金で役借を返済するという
疑似DESという方法もあります。
この場合、「増資→返済」という手続きを踏みますので、上記のDESと異なり、
債務消滅差益が出ず、法人税等が増えないというメリットもあります。
ただし、租税負担の減少のみが目的なら、この処理が否認され、
通常のDESと同様に債務消滅差益が計上され、法人税等が増える可能性もあります。