税理士:前回までのお話しの続きになりますが、役員借入金を消すために、比較的穏便な方法があります。

 

A社長:ぜひ教えてください。

 

税理士:いくつかの条件が必要にはなりますが、債権放棄をする方法があります。

 

A社長:役員借入金は、役員などから会社への貸付金ということでしたので、貸付金という債権を放棄するということでしょうか。

 

税理士:簡単にいうと、そういうことになります。ただし、債権放棄という方法も簡単にはいきません。会社にとっては債務の免除になるため、役員借入金を消す代わりに、債務免除益という収益を立てなければならないからです。

 

A社長:そうすると、会社では法人税等と消費税がかかるということですか?

 

税理士:原則的には、債務免除益も収益(益金)ですので、黒字になれば法人税等が発生する可能性はあります。ただし、その会社に繰越欠損金がある場合や赤字の場合などは、法人税等がかからない可能性もあります。

また、債務免除益では原則として消費税はかかりません。

 

A社長:それでは、繰越欠損金があるうちに債権放棄をした方がよさそうですね。

 

税理士:そうですね。繰越欠損金には10年(あるいは9年)といった失効期限がありますので、期限になる前に債権放棄をすることも一つの考え方だと思います。

 

A社長:債権放棄の契約書なども残しておく必要はありますか?

 

税理士:そうですね。債権放棄の契約書と株主総会議事録も、税務署から指摘を受けないために残しておいた方がよいですね。

 

A社長:その他に、債権放棄をする際に注意することはありますか?

 

税理士:大きな注意事項があります。株主が2人以上いる場合になりますが、債権放棄することにより、他の株主に対する贈与になる可能性があることです。

 

A社長:債権放棄しただけで贈与になるのですか?

 

税理士:そういうケースもあり得ます。債権放棄をすることにより、役員借入金という負債が減少する代わりに純資産が増加します。原則的には、株価は純資産によって決まりますので、純資産が増加すると株価も上がることになります。

債権放棄をしていない株主は、何もしていないのに株価が上がったことになるため、それが贈与ということになるのです。

 

A社長:贈与ということは、贈与税も発生するということでしょうか。

 

税理士:贈与税が発生する可能性もあります。しかし、繰越損失がある場合など、債権放棄をしても純資産が累積黒字にならなければ、贈与税は発生しません。

また、贈与税には110万円の基礎控除があるため、その範囲内の贈与でしたらやはり贈与税は発生しません。

 

A社長:なるほど。債権放棄という方法を取った場合でも、いろいろと問題はあるのですね。

 

税理士:役員借入金を消した方がよいかというのは、ケースバイケースになってくると思います。もちろん、役員借入金がないのに越したことはありませんが、逆に役員貸付金のようなものが計上されるともっと厄介です。

詳しくは延べませんが、役員貸付金が計上されると会社で利息を計上しなければなりませんし、銀行の融資でもマイナスの評価になります。最悪の場合には、税務署から役員賞与とされてしまう可能性もあります。

相続の際に、相続財産の総額が役員借入金も含めて相続税の基礎控除内であれば、あえて役員借入金を全て消すこともないケースもあるかとは思います。

 

A社長:ありがとうございました。

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